Umbrella






暗い空。雨はやまない。
何をしていたって、どうやったって、考えるのはあの人のことだけ。

くだらないケンカをしたきり、一切連絡をとっていない。

いつもみたく、ただの意地の張り合いだった。
子供っぽい文句を並べて相手にぶつけるだけ。
傷つけた、なんて考えてもみなくて。


もも…


雨が吹き付けるガラス窓に手をそえて、
厚い雲で覆われた灰色の空をいつまでも見上げている。



きっかけがないと仲直りできないとか、そんな関係じゃなかった。

今思えば、いつもいつも先に折れてくれるのは彼女の方だった。
あたしはこんなにずるかったんだ。
いくらわがままを言ったって、ひどいこと言って泣き叫んだって、
最後にはあなたの温もりが待っててくれた。


ごめんね、もも。



もう、心の中では何度そう呟いたんだろう。





午後5時。

あなたが置いていった傘を持って、1人駅まで歩いていく。


あたしは知ってるんだから。
これは、あなたの1番お気に入りの傘だって。
あなたはきっと、今日の朝も天気予報も見ずに鏡の前で笑ってるって。

だから、困った顔して当たりを見まわす。
雨ふるなんてきいてないよなんて言いながら。

そんなあなたの目にとまるように、改札から見えるこの場所で、
あたしはあなたを待ってる。



ありがとう、りーちゃん



そう言うあなたの笑顔が、もう一度だけ見たくて。





午後6時。




とっくに学校は終わってるはずなのに。

どこでなにしてるの?こんな雨の中。
もう…あたし帰っちゃうよ?


あたしが持ってるこの傘がないと、困るでしょ?
あたしがいないと困るでしょ?


だから待ってるのよ。ずっと待ってるの。



本当はここから逃げ出したい。

今にも改札から、私の知らない誰かと笑いあうあなたが出てきそうで。
怖い。


それでも、じっと待ち続ける。
電車を降りた人の波の中、あなたを探す。

見つけたらすぐ謝りたい。
許してほしい、あんなにヒドいこといった私のこと。



だから、私は待ち続ける。


雨が降り続ける限り。




もも…




今日も、帰りが遅いね…













END


























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