去年の今頃、あたしだだこねてたっけなあ。






- 好きと云えずに





梨沙子はぼんやり夜空を見上げた。

都会の明かりは少しうるさい。


それでも機嫌を損ねずにすむのは、



「もう、きいてるの?梨沙子」



少しふくれっつらだけど、それでも可愛い顔した大好きな雅が隣にいるから。



みやが隣にいるのを実感したら、

嬉しくて思わずふふっと笑みがこぼれた。



「さっきまでの態度はなんなのよ…もう…」



確かについさっきまでは正直去年に負けないくらい不機嫌だった。



だって皆みやみや集まってくるし、

みやも皆と楽しそうに笑ってるし、

何よりもみやがまた一つ離れてくのが気にくわなかった。



去年は知らぬ間に涙が出てきて、

心配してくれる皆が少しだけお節介なせいで…



あたしも幼かったと思うけど、思わずスタジオを飛び出したんだ。




今年だって変わらないよ?


たまんなく悔しいよ?



少しだけ近付いたと思ったのに、


またみやが離れてっちゃうんだもん。


でも去年までのあたしは…何てゆうか単なる意地っ張りだったのかもしれないって最近思うようになってきて。


あたしはみやに置いて行かれるのが悔しくて泣いたり怒ったりしてるんじゃない。


本当は出来るだけ長い時間誰よりも、
みやの傍にいたいんだと思う。


だからみやが離れてっちゃったら寂しいし、その分誰かと近付いたら悔しい。



いつの間にか、


あなたという人はあたしの中でそんなにも大きく溢れだして。



気付いちゃったんだよ、りー。



今日という日がなければ、

あたしはみやに出会えなかったんでしょう?



そんなの絶対にいやだもん。



だって、あたしはみやに出会うために生まれてきたって信じてるから。



それで逆を返せばさ、

こんなに素敵な日ってないじゃない?



こんなに素敵な日を、

こんなに大切な日を、


子供みたいに激しく感情表現して終わらせるわけにはいかない。




だからもう何もゆわない。


…顔には出ちゃってるかもしれないけど。


あたしの決意を知ってか知らぬか、

みやの手がそっとあたしの手をとった。



「んー?」



少しだけ別世界にとんでいたあたしはみやの温もりに少し安心感。



「梨沙子、何考えてんのか分かんない…」



あれ?

みやの今の表現去年のあたしにそっくりだよ?



「みやのこと考えてたんだよー」



何だかみやがすっごく可愛く見えて、

思わず素直にそういっちゃった。



「ばか。私はここにいるんだから、今私のこと考える必要ないじゃない」



少しだけみやの手が震えてる。



だからあたしは、それよりもほんの少しだけ強い力で震える手を握りかえした。




みや。


みや。


大好きだよ。



思ってるだけじゃ伝わらないかな?




去年も今も来年も


出会ったあの日から


ずっとずーっと大好きだよ。




「ねえ梨沙子」


「ん?」


「まだ、あの一言ゆわれてないけど…?」




みや。


みや。


うまれてきてくれてありがとう。



みやと出会えて幸せだよ。


こんなにこんなに愛してるよ。





まだ気持ちを伝えるには形が定まらなくて、
押さえられないグチャグチャな気持ちが心から勝手に溢れる。



小さな声で心の中で呟いたら、

味わったことない痛みに襲われた。



胸が痛いよ。





「誕生日おめでとう、みや」




痛みを誤魔化してあなたを抱き締めたら、


いい匂いがして余計苦しくなった。




「ありがとう、梨沙子」





ああこの笑顔を来年も独り占め出来たらいいのになあ。



そんなことを考えてたら涙が出そうになったから。


先のことを考えるのはよそう。



今は、

あなたという人が生まれてきた今日に、

ただひたすら感謝するんだ。



そうすれば、

少しはこの痛み飛んでってくれるかな?









END








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