̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ H u g ______
「みや…」
梨沙子は私の名前を切ない声で呼ぶ。
それはいつからか2人のサインに。
2人きりの楽屋。
そっと歩み寄る。近付いてく、近付いてく…
そして、梨沙子の腕がまわる。
生身のヒトの温もりを感じて、私は胸が苦しくなる。
抱きしめる。
それは無言のメッセージ。
なにか得体の知れない不安におそわれたとき。
夕暮れに寂しさを感じたとき。
…私の知らないであろう誰かを恋しく想ったとき。
梨沙子は私を抱きしめる。
その感情が嫌で、逃げ出したくて、ごまかしてるの?
私じゃなくても…他に誰でもいいの?
そんな余計な疑問が生まれてきたのごく最近のはずなのに、
それは私の中で耐えられないくらい大きくなっていた。
初めて抱きしめられたのは、アルバムのレコーディングの後。
静かに震える白い腕を拒む理由なんて、私は持っていなかった。
だけど、今はちがう。
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空は、朝から沈んでいた。
仕事が終わって帰る頃には、もうすでに泣き出していた。
解散の支持がでてすぐ、あなたはあの娘とどこかに消えた。
手を握るなんて当たり前のことしてる後姿を見て、
胸が痛くなっても誰にもいえない。
ポツリポツリと人が減っていく楽屋。
気付けば1人取り残され、気付けば2人の荷物もなくて。
心が、くずれていくのが分かった。
ああ、私は期待してたんだ。
いつもと同じ、2人きりの楽屋。
あなたがそっと歩み寄ってくることを。
あなたに抱きしめられることを。
ねえ、梨沙子。
私はあなたの温もりに触れられないだけで、苦しいの。
あなたの腕の中で以外、生きてる意味なんてないのに。
私を抱きしめてるとき、あなたの心の中には誰がいるの?
「みや?」
私を呼ぶ声がして、反射的に振り返る。
「まだ、いたんだ…」
そんな笑顔で見ないで。
心のどこかにあった期待を見透かされてるようで、体が熱くなる。
「ねえ、みや?」
まただ。また、近付いてくる。
その声、その目、その表情。
私じゃない誰かを見てるんでしょ?
いやだ、やだ…
梨沙子の腕が背中にまわっても、もう心は温かくなれない。
自分の気持ちに気付いてしまったから…。
支えたい、はやく元気になってほしい。
私はそう嘘を並べてずっと梨沙子を抱きしめかえしていた。
本当はただ、誰よりも傍にいられるこの時間が好きだったの。
ずっとずっとあなたに包まれることを望んでた。
だから、私は…
「あたし、みやに言わなきゃいけないことがあるんだ」
梨沙子の言葉に涙が溢れ始める。
きっともう二度とこうして彼女の温もりを感じることは出来ないんだ。
頭が考えた想像を体は勝手に受け取った。
すべてすべて自分のせいだ。
梨沙子を好きにならずにいれば。
ただ、仲間として支えてやれれば。
特別でない抱擁に感情をゆだねなければ。
「なに…?」
まだきっと泣いているのはばれてない。
私が泣いているのを知ったら、あなたはきっと口をつぐむから。
ちがうの。泣いているのは梨沙子のせいじゃない。
私が勝手に、叶わない恋を始めて、
そのせいであなたの温もりを心から感じることが出来なくなって…
今はそれで一番悲しい。
だけど最後まで、私はこうして、強い私であなたを支えなきゃならない。
途中で仲間という地位を捨ててあなたを焦がれた私に出来る、最後。
「…なにも言わずにきいて」
「わかった…」
梨沙子は小さく息を吸う。
「あいしてるよ」
そう耳元で、一言。
なにを言ってるの?
「ずっとずっと好きだったんだ」
反応できない私に、なおもあなたは言い続ける。
そっと二人の間に距離ができる。そのとき、初めて梨沙子の目を見た。
初めて見る表情だった。熱っぽい瞳、だけど力強い。
今まで私の肩を通り過ぎていったはずのあなたの視線が、今私の目を見ている。
間違いなんかじゃない。夢なんかでもない。
やっぱり、あなたの瞳の中には私がいる。
「うそ…」
こぼれた私の言葉に、あなたは大きく首をふる。
それでもやっぱりちゃんと私を見てくれる。
「うそなんかじゃないよ。…あいしてる…みやだけを…」
梨沙子はそっと、私を抱きしめる。
だけどそれは、今までとは全てがちがった。
私の視界から顔が見えなくなるほんの前、あなたの瞳から涙がこぼれたのが分かった。
「ごめんね、ごめんね…みや」
知らなかったの。
あなたの腕の中はこんなにあたたかくて、
あなたの胸の鼓動はこんなに心地よくて、
私の髪に触れるあなたの指先が、こんなにもふるえていたことを。
感じたことのない抱擁。
みやだけを…
あなたの目、あなたの言葉。
うれしくて、うれしくて、涙は溢れる。
安心感の中、大きく息をすったら、あなたの匂いが体にとけた。
そっと、私も腕をまわす。
心も体も、重ねあう。生まれ変わった私たち。
「ちがうの、梨沙子…」
うれしくて泣いてるの。
あなたの温もりを感じることが出来て。あなたにあいしてると言われて。
うれしくて安心して、もう、なにもいらなくて。
「私だって、ずっと…」
ほんの少し、ほんとうに少しだけ背伸びをして、
あなたの耳に口付けた。
あなたがくすぐったそうに笑うから、私もつられて泣き笑い。
もう一度大きく息をすって、そっとそっと、目をとじた。
END
わーい!みや誕生日おめでとう!
ぜんぜん関係ない話で、ごめんね!(激しく笑顔
かっこいいりーちゃんを書きたくて、
初めてあいしてるとか言わせてしまった。
こっちが照れくさい(つω`)