Expect






5時間目は1日の中で最大の敵だ。
お昼ごはんのあとでなにより眠いし、その上木曜日の今日は国語だ。

最初は理解しようと話をきいてるものの、やっぱりあいつはやってくる。
睡魔という名のボスだ。


小学6年生のアイドル、菅谷梨沙子は常時疲れているのだ。



あーあ…もうねむいよ…




春の陽気に誘われて、頭がどんどんかたむいていく。
先生の柔らかい声と木の温もりに負けて机に突っ伏す。

せめて眠らないように窓の外に目をやる。
それといった面白みはなくて、私の頭の中はあの人のことに切り替る。



みや…なにしてるかな



正直、あの人のことを考えない時なんてないぐらい、いつも私の中にいる。
家にいるときだって、学校にいる時だって、みやのことを考えてる。


みやは今何をして、誰といて、何を考えているんだろう。
少しでもいい。
ほんの少しでいい。


私がみやのことを考えているように、
みやも私のことを考えてくれてたらいいなって思う。


夢心地の中、ふとみやが外に立っている気がしてはっと上半身を起こす。

もちろん、みやがいるはずなく、本来味わう必要のなかったがっかりを味わって、
もう一度机の上に突っ伏した。


マンガとか映画の世界だったら、きっとみやはどこかに隠れて待ち伏せしてて、
かっこよく登場するんだろうな。



なんだかもう心地がよすぎて、夢を見ているのか起きているのかわからなくなってきた。



チャイムの音で一気に現実に引き戻された。
日直の声にも反応しきれず出遅れる。

もう少しだけ、あの夢みてたかったのに…

帰りの支度をしながらそんなことを考えていると携帯が震え始めた。
びっくりしつつ、とりあえず開く。
電話だ!
まわりに人がいないことを確認して、通話ボタンを押す。



「もしもし…」


『あ、梨沙子?もう学校おわった?今日さ…』










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電話を切った私は、廊下をかけぬけ下駄箱へむかう。
こらっ菅谷!なんて先生の声も今日ばっかりはすりぬけてく。

靴をはいてあざやかな青空の下を走る、走る。
走るのあんまり好きじゃないけど、今日ばっかりは別の話。


少しずつ、でも確実に正門に近づいていく。



やっぱり、みやはすごい。みやはかっこいい。
私が思ってることとか、したいこととか、いつも全部分かっちゃってるんだ。

後姿がみるみる近づく。


ききたいことはたくさんあるんだけど、1番ききたいことがある。
それから、1番伝えたいことも。





みやは私のこと考えた?って。


私は、みやのこと考えてたよ、って。

























END



























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