01 Apr 2007






泣き止まない梨沙子。もう何分経っただろう。
静かな廊下に嗚咽だけが響いてる。

メンバーの気遣いで私たちは2人きりになった。
1人にした方がいいのかな、とも思ったけれど、梨沙子は一度握った私の手を離そうとしなかった。


今日のコンサートを成功させられた喜び。
私はそれに興奮しているんだけど、梨沙子は感極まったみたいで。
まだ2人とも余韻を味わってる。声援が耳から離れない。

駆け抜けてみればあっという間だった、今日までの3年間。
Berryz工房がスタートしたときにはまだ小学生6年生だった私と、4年生だった梨沙子。
時はさっさと流れて、私は中学3年生、梨沙子も1年生になろうとしてる。




 ―…早いね、梨沙子。
 ―…もう梨沙子も中学生になるんだね。




心の中で話しかけるように私は彼女の背中を撫でつづける。




いろいろありすぎたのかな。

小学校を卒業したこと、中学校に入学すること。
新しくモデルの仕事を始めたり、こんな大きな会場でコンサートをしたり。
梨沙子はグループでも最年少なのに、なにかといつも負荷がかかってる。

それに、この子はもとから打たれ強い子じゃない。
口癖はどうしようだし、ことあるごとに私を頼ってくる。




 ―…梨沙子、もう中学生になるんだから。
 ―…いつまでも泣いてちゃだめだよ。




そう少しだけでも厳しく出来たらどれだけ楽なんだろう。
でも、泣いてる彼女に私は言えない。
それどころか握られた手を握り返したり、少しでも安心出来るように身を寄せたりしてしまう。

おかしい考えかもしれないけど、泣いてる梨沙子は梨沙子らしいと思うんだ。
感情豊かで怒ったり笑ったりはちゃめちゃだけど、
そんな子供らしい彼女だって私は嫌いじゃないから。


だから逆に想像がつかない。
もし梨沙子が強くなって、泣かなくなったら。
私が傍にいる意味はどこに流れていくんだろう。



 ―…ねえ、梨沙子。
 ―…もっと自信を持って。

 ―…梨沙子は、どんどんステキな人になっていってるよ。
 ―…まぶしくて見えないくらい、きらきら輝いてる。



そう言いたい。だけど、私は口には出せない。


少しだけ恐いのかもしれない。
だから、私は。







「もう、いつまで泣いてんのよ」

「だってぇ…」



口ではそう言いつつ、梨沙子を強く抱きしめる。
子供っぽい熱い体温が何度も腕の中で揺れる。


「梨沙子は本当に泣き虫なんだから」


私の言葉に梨沙子はただむーっと唸った。
こんなこと言ったら梨沙子はいじけるって分かってる。

だけど、私たちにはそれぐらいがちょうどいい。
優しい言葉をかけて、優しい抱擁をしたら、私はきっと何かを越えてしまう。



「もう13歳でしょ?」



自分で言っておきながら、おもわず視界が少し歪んだ。
梨沙子が13歳?なにそれ。

腕の中でただ頷く少女に、私はどうして欲しいっていうんだろう。

自分の中の歪んだ気持ちを誤魔化すように、私は優しく笑ってる。


なんだか、今日は私も脆いみたい。
窓の外遠くに見える桜をみて、とてつもなく大きな感動と漠然とした不安が同時に押し寄せてきた。

いつの間にか抱きしめられてるのは私の方で…


「もう大丈夫だよ。ありがとう、みや」


涙で顔をぐちゃぐちゃにして笑う梨沙子。
大丈夫。私だっていつもどおりに笑えてる。


手を繋いで、私たちは歩き出す。



「ねえ、みや」

「ん?」



梨沙子はえへへと笑って立ち止まる。


「あたしもう13歳だよ」

「知ってるってば。てゆか、さっき私が言ったんじゃん」


私の突っ込みに梨沙子はまただらしない笑顔を見せる。


「だからさ、その…」


大事なところで言葉を切られた私はなんだか心地悪い。
そんな私のことなんてお構いなしに、梨沙子はまだへらへら笑ってる。


「なによ」

「えーと…どうしよ……なんでもない!」


ここまでためてそれはないでしょ。何かを秘めた笑い方に腹が立つ。


「みや、怒ったぁ?」

「べつに」


ここで怒ったって言ったら、私が大人気ないみたいだから。

私の言葉になんでか梨沙子は残念そうな顔した。
そこで何で梨沙子ががっかりするのか意味わかんなくて、だから、私のいらいらなんてどこかに飛んだ。
百面相ってこういうことを言うんだろうか。


「ねえ、みや」


数歩歩いたところでまた梨沙子が呼び止める。
今度は返事をせずに振り向いた。

もう、梨沙子は笑っていない。



「来年もここで、コンサートしたいね」



そう言う梨沙子の瞳の中に私は映っていない。
さっきの私みたく、どこか遠く、窓の外の桜を見つめてる。

私はまた少し恐くなるけど。



「うん」



そう返事をして手を少しだけ強く握り返したら、
「できるよね!」と梨沙子はまた笑顔で私を見てくれたから。


「当たり前じゃん」


そう一言返して私たちはまた歩きだす。



絶対に、この手を離したくないと思った。













































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